R5.10月本店局内勉強会~「乾癬」についての理解を深める~

こんにちは、本店 薬剤師の中川です。いつも山田衛生堂薬局をご利用いただきありがとうございます。乾癬は皮疹を伴う慢性の皮膚病で、日本では約50~60万人の患者さんがいると推計されています。乾癬治療の進歩は目覚ましいものがあります。今回は乾癬全般について、そして比較的新しい治療薬について薬局内で勉強会を開催いたしました。

◎そもそも乾癬とは?どうして起こりえるのか?

皮膚は外からの刺激・乾燥等を防御したり、細菌・ウイルスの侵入を防ぐといった免疫機能を受け持ち表皮、真皮、皮下組織の3層構造になっています。一番外側の表皮は基底層から角質層に向かう4層から成り立ち、基底層で新しくできた細胞は徐々に角質層へと押し上げられ、最後は垢となって剥がれ落ちます。このサイクルをターンオーバー(分化)と呼び、約1~1.5ヶ月のサイクルで繰り返されます。 乾癬はこのサイクルが4~5日と非常に短くなるため、皮膚が盛り上がった状態(肥厚:ひこう)や赤い発疹(紅斑:こうはん)が現れます。ターンオーバーが速いので、皮膚に堆積した角質細胞(鱗屑:りんせつ)は白っぽくなりポロポロと剥がれ落ちます(落屑:らくせつ)。
全身のどこにでもできますが、よくこすれる部位(肘、膝、腰)や頭皮に生じやすいのが特徴です。また、爪の内側に症状が出ることもあります。はっきりした原因は不明な部分も多いのですが、遺伝的な素因や色々な環境要因が絡み合って、免疫機能が異常になることで起こると考えられています。

◎免疫の異常とは

免疫細胞にはマクロファージ、樹状細胞、T細胞などがあります。これらはサイトカインという小さなタンパク質で互いに連絡を取り合いながら、免疫機能を調整しています。しかし、このバランスが崩れると免疫細胞からサイトカインが大量に放出され続け、皮膚に炎症を起こしたり、皮膚細胞を過剰に作り出したりします。この皮膚の変化が、さらにサイトカイン放出を引き起こし、症状がどんどん悪化する要因となります。

◎乾癬の分類

乾癬は次の5つに分類されます。
・尋常性乾癬   ⇒ 境目がはっきりした皮疹が多発するタイプ。乾癬の約90%を占めます。
・関節症性乾癬 ⇒ 皮膚症状に加えて、手足の関節の腫れや痛み、変形を伴う場合です。
・滴状乾癬   ⇒ 溶連菌感染(扁桃炎)後に水滴ほどの大きさの小型の皮疹が全身に現れます。
・膿疱性乾癬  ⇒ 皮疹に小さな無菌性の膿疱(膿をもった水疱)が多く現れ、一般に重症です。
・乾癬性紅皮症 ⇒ 尋常性乾癬が全身に広がり、皮膚全体の80%以上が赤くなった状態で重症です。

◎乾癬の治療

乾癬治療は全身療法と局所療法に大別されますが、治療の全体を表したものに「乾癬治療ピラミッド」があります。
1.外用療法 ⇒ 多くの場合、まず始める治療でステロイド薬、ビタミンD3製剤、配合剤があります。
2.光線療法 ⇒ 紫外線の過剰な免疫を抑える作用を利用して症状改善を図る治療です。
3.内服療法 ⇒ 外用薬で効果不十分な中等症から比較的症状が重い乾癬に用いられます。
4.注射療法 ⇒ 光線療法や内服療法で効果が得られない場合、日本皮膚科学会が承認した病院でのみ治療を開始します。
 以下、順にそれぞれの治療についてお話ししていきましょう。

1.外用療法(塗り薬)

塗り薬には炎症を抑える「ステロイド外用薬」、表皮の異常な増殖を抑える「活性型ビタミンD3外用薬」、さらにこの2種類を混合した「配合剤」が使用されます。
A.副腎皮質ステロイド薬
  ・幅広く皮膚疾患に使用され、強度の違いも含め多種類の軟膏やクリーム剤などがあります。
  ◎コムクロシャンプー ⇒ 頭皮の尋常性乾癬、頭部湿疹・皮膚炎に用います
     最強ランクのステロイド(デルモベート)を含んだシャンプー
     デルモベートスカルプや各種の軟膏・クリームの使用感が気になる頭部に適しています。  
     乾いた頭部に塗り、15分後に頭にお湯か水で優しく泡立てた後、洗い流すシャンプーです。

B.ビタミンD3製剤 <高カルシウム血症や腎機能への影響を防ぐため、定期的な血液検査が必要>
  ◎ドボネックス軟膏             ⇒ 1日2回、使用量は1週間に最大90g
  ◎オキサロール軟膏・ローション      ⇒ 1日2回、使用量は1日最大10g
  ◎ボンアルファ軟膏・クリーム・ローション ⇒ 1日2回
  ◎ボンアルファ ハイ軟膏・ローション    ⇒ 1日1回、使用量は1日最大10g

C.配合剤 <高カルシウム血症や腎機能への影響を防ぐため、定期的な血液検査が必要>
  ◎ドボベット(軟膏・ゲル・フォーム)⇒ 尋常性乾癬に用います
     ステロイドのリンデロンDPとビタミンD3のドボネックスの成分を配合した製剤。
     3種類の剤型があり、皮疹の部位や季節なども考慮して選択できます。
     顔面の皮疹には使えません。また妊婦・授乳婦の方への使用は推奨されません。
     1日1回、使用量は1週間に最大90gまでです。
  
◎マーデュオックス軟膏 ⇒ 尋常性乾癬に用います
     ステロイドのアンテベートとビタミンD3のオキサロールの成分を配合した製剤。
     軟膏のみですが、部位の使用制限がありません(顔面へは十分考慮する必要があります)
     妊婦・授乳婦の方への使用は推奨されません。
     1日1回、使用量は1日10g(1週間で70g)までです。

2.光線療法

紫外線の免疫の過剰な働きを抑制する力を利用するものです。UVA(長波長紫外線)を用いるPUVA療法、UVB(中波長紫外線)を用いるUVB療法があり、皮疹の範囲に合わせ紫外線を全身または部分的に照射します。塗り薬で効果がみられない場合や、皮疹の範囲が広くて薬を塗るのが大変な場合などに行われます。光線療法は通常、入院で週4~5回、外来で週2~3回の頻度で行われます。

3.内服療法(飲み薬)

中等症から重症の比較的症状が重い乾癬に用いられ、角質細胞の異常な増殖を抑える薬、免疫の過剰な働きを抑える薬、炎症を抑える薬があります。
歴史あるものとして、ビタミンA誘導体のチガソンや免疫抑制剤のネオーラル、リウマトレックスが用いられてきました(いずれも尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症に適応)。

新しい飲み薬としては、
 ◎オテズラ錠 (アプレミラスト)
  <ホスホジエステラーゼ4阻害薬>
  ・局所療法で効果不十分な尋常性乾癬および関節症乾癬に用います
  ・妊婦さんには使えません。また、腎機能の非常に悪い方には注意が必要です。
  ・免疫細胞の中のc-AMPと呼ばれる物質の濃度が低いと免疫が過剰に亢進します。
   このため、c-AMPを分解する酵素「ホスホジエステラーゼ4」を阻害し、免疫細胞内のc-AMP濃度を上げることで免疫細胞からの炎症性サイトカイン産生を抑制する新しい機序の薬です。

 ◎リンヴォック錠 (ウパダシチニブ)
  <ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬>
  ・1日1回服用で既存治療で効果不十分な関節症乾癬に用います
  ・妊婦さんや肝機能の非常に悪い方には使えません
  ・免疫細胞間の情報伝達を担うサイトカイン(IL-4、IL-13、IL-22、IL-31、IFN-γなど)が免疫細胞の受容体に結合すると、受容体に付随するJAKという酵素が活性化され細胞内でシグナル伝達が始まります。この薬はJAKに結合し、その酵素活性を阻害し、免疫細胞内のシグナル伝達を途絶えさせるものです。
  ・服用中は感染症に十分注意が必要です。

 ◎ソーティクツ錠(デュークラバシチニブ)
  <チロシンキナーゼ2阻害薬>
  ・1日1回服用で既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症に用います。
  ・妊婦さんや肝機能の非常に悪い方には注意が必要です。
  ・免疫細胞の受容体に付随する酵素にはチロシンキナーゼ2と呼ばれる酵素タンパクもあります。
   この酵素は乾癬の原因となる炎症性サイトカインIL-12、IL-23、IFN-αが受容体に結合すると活性化され、細胞内のシグナル伝達が始まります。
   この薬は、チロシンキナーゼ2を阻害することで炎症を抑え、乾癬の進行を抑制します。
   チロシンキナーゼ2はヤヌスキナーゼのファミリーなので、作用の仕方がよく似ています。
  ・服用中は感染症に十分注意が必要です。

4.注射療法(生物学的製剤)

既存の全身療法(内服療法や光線療法)で十分な効果が得られない場合に使用します。
免疫細胞の情報伝達に係るサイトカインというタンパクの働きを弱めることで炎症を抑え、皮膚の新陳代謝を調整します。この炎症性サイトカインには多くの種類(TNF-α、IFN-α、IL12、IL-17、IL-23など)が知られていて、薬剤によりそれぞれ標的とするサイトカインが異なります。近年、特に目覚ましく開発が進んだ分野です。
 ここでは、患者さん自身で注射できる「自己注射」の5製剤をご紹介しましょう。
    薬 品 名  <投与間隔>       < 適 応 症 >       
  ヒュミラ皮下注      2週間    尋常性・関節症性・膿疱性乾癬         
  コセンティクス皮下注 4週間    尋常性・関節症性・膿疱性乾癬          
  ルミセフ皮下注    2週間 尋常性・関節症性・膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症  
  シムジア皮下注    2又は4週間  尋常性・関節症性・膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症  
  トルツ皮下注     2又は4週間  尋常性・関節症性・膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症  

 これらの自己注射製剤以外にも病院で点滴や皮下注の治療が受けられるものとして「レミケード」「ステラーラ」「トレムフィア」「スキリージ」「イルミア」「ビンゼレックス」があります。
生物学的製剤は副作用として結核・肺炎などの重篤な感染症に十分注意する必要があり、日本皮膚科学会が承認した施設でのみ治療を開始することができます。

◎生物学的ってなに?

微生物などの生き物の細胞を利用して目的とする成分を作らせる手法があります。比較的簡単な構造の薬は科学的な合成法で作れますが、複雑な構造のタンパク質は、生き物の細胞に設計図となる遺伝子を組み込み大量に培養して目的の薬を作ります。このように生物の力を借りて薬を作るので生物学的製剤(バイオ医薬品)といいます。ただ、とても大がかりな製造設備と高度な精製技術が必要なため、高い薬価となってしまいます。乾癬の治療に用いられる注射薬はすべて生物学的製剤の抗体医薬品です。特許が切れれば、先発品と同等の有効性と安全性が認められたジェネリック(バイオシミラーと呼びます)が発売されることでしょう。

◎乾癬は人にうつる?遺伝する?

乾癬は感染ではないので、人にうつることはありません。また、乾癬になりやすい体質は遺伝するといわれますが、必ずしも乾癬を発症するものではありません。発症には食生活、気候、ストレスなどの外的因子や、糖尿病、高血圧などの内的因子が重要な役割を果たしていることがわかってきています。親が乾癬で子どもが乾癬を発症する割合は、欧米では20~40%程度ですが、日本では4~5%程度といわれています(日本皮膚科学会HP)。

◎乾癬は治るの?

根本的な治療法はまだありませんが、乾癬の症状を和らげたり、現れないようにすることは可能です。慢性の皮膚疾患のため、軽快や増悪を繰り返すこともあります。暴飲暴食や偏食、強い肉体的・精神的ストレス、風邪などの感染症など、症状を悪化させやすい自身の原因を見つけ出すことも大切です。

◎乾癬の症状改善のために日常でできること

飲酒や喫煙、肥満や糖尿病は、サイトカインを過剰に作り出す原因となり、乾癬の悪化につながることが考えられています。また、メタボリックシンドロームでは乾癬発症のリスクが非常に高まることが知られています。
 食事管理や定期的な運動で体質を改善することで、乾癬の症状が軽減することが知られています。
 具体的には、
★高カロリーの肉類や脂肪を避けて、魚類や野菜を増やす
★痒みを増長する香辛料や体が温まる食べ物、飲酒を控える
★衣類、タオル、ハンカチ、寝具は柔らかい天然素材(綿・麻、シルク・ウール)を選ぶ
★「ケブネル現象」を知る ⇒ 皮疹のない部位に刺激が加わると、そこに新たな皮疹ができる現象。
  洗髪時のこすり過ぎ、掻き傷、髭剃り、虫刺され、靴擦れ、メガネ、ベルト、襟や袖口、腕時計など
★症状悪化を防ぐため禁煙、感染予防(手洗い、うがい)を心がける
★適度な日光浴、ぬるま湯・短時間入浴 ⇒ 適度な紫外線効果、リラックス効果が得られます。
★乾燥は大敵 ⇒ 保湿(加湿器、入浴後の保湿剤)の勧め

◎終わりに

今回は皮膚疾患の乾癬全般についてお話ししました。乾癬には免疫異常が深くかかわっていますが、本来、外敵から身体を守ってくれる精緻な仕組みが過剰に反応すると身体を攻撃して病的状態を招いてしまいます。乾癬以外にも、アトピー性皮膚炎、潰瘍性大腸炎、クローン病、膠原病(関節リウマチ、全身性エリトマトーデス、強皮症、多発性硬化症、皮膚筋炎、ベーチェット病・・他)、悪性腫瘍、円形脱毛症、新型コロナウイルス感染症による肺炎など様々な疾患が免疫異常と深く関連しています。まだまだ不明な点も多いですが、医学・薬学は日進月歩で進んでいきます。

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